不良真空管の実態 その2 (2A3の例)2023/12/30

 今日のお題は不良2A3です.今回,日本製8本(古いものと1980年代製造),アメリカ・カナダ製(主として戦中,戦後すぐの製造)36本,ロシア製(比較的新しいSovtek製)8本,合計52本を検査しました.この内,中古が5本です.アメリカ製,ロシア製,全数問題無しでした.不良は,日本製の写真の中古2本だけで,合格率は比較的高かったので安心しました.
不良2A3
 まず,写真上のマツダ製の中古から見ていきましょう.ゲッターOK,フィラメント(ヒーター)の導通あり,プレート電流も流れました.ん〜と,でも半分以下です.フィラメント電流を見ると,丁度半分しか流れていません.そうです,並列のフィラメントのうち,片側が断線していました.オークションなどでフィラメントの導通のみチェックという2A3を見かけますが,それでは検査不十分ですね.低抵抗をきちんと測るには,ちゃんと電流を流さないとダメです.
 次に,下側のNaitional(松下電器)製の2A3.これは昭和30年代に祖父が作製した2A3プッシュプル電蓄から外した懐かしい1本です.1975年頃にシングルステレオとして作り直したアンプで最初に使いました.その時,ハムがどうしても取りきれず悩まされた1本です.約50年経過して,測り直して見ると,さらに症状が悪化.60 mA流れるはずのプレート電流が40 mA,それも見る見る低下.長く寝ていた真空管では,「最初,プレート電流が少なくても,少しづつ増えてくる」は,普通ですが,これはダメです.エミッションが多少低くても,さほど問題はないですが,どんどん下がるは大問題です.
ということで,これも燃えないゴミとなりました.
 ところで,エミッション低下はどうして起きるのでしょう?その物理的な原因を想像して見ます.多くの場合,ヒーター電流は落ちていないので,カソード(直熱管ではフィラメント)の温度は問題ないと思われます.原因は恐らく,カソードに塗布されている「仕事関数の低い物質,エミッション材料」に何か変化が起きたのでしょう.その変化とは,1.その物質の酸化状態の変化,2.形状あるいは粒状の変化,3.量の減少が想像されます.フランス製のF410(通称BF25)で,フィラメントから白い粉が剥離しているものを見たことがありますが,これはケース3です.ただ,不思議なことに,このF410ではエミッションは減っていませんでした.最初から十分過ぎるくらいに塗布されていたんでしょうね.2.の形状変化ですが,電場の大きさは曲率半径が小さいほど大きいので,粒が成長して大きくなるとエミッションが低下しそうです.1.の酸化状態の変化については,私は分かっていないので,文献調査が必要です.(補足ですが,トリウム入りタングステンのフィラメントの場合,エミッション回復の熱処理は知られています.)